MOFって何? もふもふしてるの?
今回はMOF(Metal Organic Framework、金属有機構造体)やPCP(Porous Coordination Polymer、空孔を有する配位高分子)などと呼ばれている化合物のお話しです。
前回のブログでは、4つの金属イオンを4本の棒状の分子で結合すると正方形の分子ができることをお話ししました。金属間をつなぐ分子を工夫すると3次元状の立体的な空孔を持った分子もできることも紹介しました。ただ、前回ご紹介した化合物はいずれも単一の分子で、無限に原子がつながってできる高分子ではありませんでした。
それに対してMOFは高分子構造となっています。たとえば図1のように丸い玉と棒を使ってジャングルジム(右側)や層状(左側)の構造を作ることができます。分子の世界でも同じような構造を持った高分子を作ることができます。実際にはこの図に示すよりもずっと長く(縦にも横にも奥行き方向にも)連続してつながっている構造なのです。結合を作る部品が金属で、金属間をつなぐ物質が有機物である場合、MOFと呼ばれます。MOFにおいて金属原子をつなぐ有機物として典型的なものを図2に示しました。
図1 球状と棒状の部品から層状(左)とジャングルジム(右)のMOFを作る
図2 MOFにおける結合部品としてよく用いられる分子の例
MOFによる気体の貯蔵
実はこのような構造の化合物が存在することは昔から知られておりました。たとえば、葛飾北斎やゴッホも絵の具として用いた青色顔料である鉄の化合物のプルシアンブルー(Fe4[Fe(CN)6]3)は、鉄イオンの間をシアン化物イオンで結んだ上記右のようなジャングルジム構造となっています。しかし、これらの化合物を系統的に合成して、その構造や性質の研究が行われるようになったのは1990年頃以降です。
このような物質は別の分子を収容することができる空孔を多く持っています。そこでこのような物質の中に様々な分子を貯蔵することが考えられるようになりました。京都大学の北川進先生はこの分野におけるパイオニアのお一人です。[1] 北川先生のグループは1997年にコバルト金属を含み、窒素N2やメタンCH4を貯蔵することができるMOFをつくられました。この化合物は1gあたり30気圧の下で約0.035 g(0℃、1気圧条件として約50 cm3)のメタンを吸収させることができるそうです。この研究が一つの契機になり、北川先生のみならず世界中で様々な気体を貯蔵できるMOFが作られるようになりました。
単に気体を貯蔵するだけならいわゆるガスボンベを使えばいいじゃないかと思われるかもしれません。しかし意外とガスボンベに詰め込むことのできる気体の量は多くはありません。町で見かける大きなガスボンベ(約50L)に150気圧詰め込んでも水素だと300g程度、メタンでも4.5kg程度しか貯蔵できないのです。ボンベは50kg近くあるのでその重さから考えるとメタンは9%しか貯蔵できません。それに対してごく最近(2017年12)報告された最新のMOFでは65気圧でその重量の17%のメタンを貯蔵できる[2]とされています。MOFの能力は意外にすごいのです。図3にはMOFの構造を示す図と実物の写真を北川先生のHPから拝借して載せました。
図3 MOFができるイメージと実物の写真(https://www.icems.kyoto-u.ac.jp/ja/wwa/kitagawa/)
使用を許可下さった北川進先生にお礼申し上げます
MOFのこれから
分子を貯蔵するだけではなく、空孔の中で化学反応(たとえば有機物の酸化反応とか重合反応とか)を起こさせる研究も進んでいます。触媒としてMOFを用いて効率よく化学反応を進行させることができる系がいくつも報告されています。またMOFを用いることで空孔の中に入る分子のみ反応させるようなこともできるというわけです。
2回にわたって空孔を有する金属化合物の話題を取り上げました。この分野はご紹介したように日本の化学者が世界をリードしている分野でもあります。これからも多くの成果が出てくるといいですね。それではまた次回お会いしましょう。
改訂:図2 4,4′-ピラジン → ピラジンに訂正(2018年3月6日)
参考資料
[1] Kitagawa, S.; Kitaura, R.; Noro, S. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43 (18), 2334–2375. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.200300610
[2] Tian, T.; Zeng, Z.; Vulpe, D.; Casco, M. E.; Divitini, G.; Midgley, P. A.; Silvestre-Albero, J.; Tan, J.-C.; Moghadam, P. Z.; Fairen-Jimenez, D. Nat. Mat. 2018, 17 (2), 174. https://www.nature.com/articles/nmat5050
坪村太郎
最新記事 by 坪村太郎 (全て見る)
- DNAコンピュータが一歩現実に近づいた - 2024年11月4日
- アルミニウムによる水素製造の効率化 - 2024年9月30日
- 共有結合の電子を見る - 2024年9月2日