私たちの生活を支えてくれる炭素(C)

身の回りの材料を見てみよう!!

第二回は、原子番号6「炭素」のお話です。

炭素(C)は、皆さんにとって割と身近な元素だと思うのですが、例えばどのようなことを知っているでしょうか。地球温暖化の原因物質として問題になっている二酸化炭素(CO2)は炭素を含んでいます。変わらぬ愛という石言葉を持つダイヤモンドは炭素だけでできていますし、鉛筆の芯も黒鉛という炭素だけでできている物質です。この2つは同じ炭素でできている物質でも、炭素原子同士の結合の仕方が違うだけで、見かけも性質も、その価値までもがこれほど違うのだと驚かされます。また、寒い時期に暖をとるのになくてはならない灯油やガス、車の燃料であるガソリンにも炭素が含まれ、それぞれを構成する分子構造が違うのです。

このように炭素原子は身の回りにたくさんあって、話題の尽きない元素です。そこで今回は、暮らしの中の“材料”という観点に絞って見てみましょう。

昔に遡ると、人類は木材をくり抜いて器にし、石を鋭く加工してナイフのように使い、このナイフで動物の毛皮を剥いで着衣としていました。その後、銅や鉄が発見され、金属加工技術が誕生したことで、金属が私たちの利用できる天然素材に仲間入りしました。そして近代になり、金属の代替品としてより軽量、便利、耐久性の高いプラスチックが開発されてきたのです。プラスチックは、もはや私たちの生活に欠かせない素材となっています。

人工的に作られた合成物質の登場

さて、私たちの生活を豊かにしてくれる道具、生活必需品や、家電製品に注目してみると、それらの多くが、一般的にプラスチックと呼ばれているものでできていることに気付きます(写真1)。プラスチックとは、合成樹脂のことです。『合成』、つまり元々自然界にないものを人間が作り出したというわけです。

1869年にセルロイドが作られました。これが最初のプラスチックだとされています。ただ、原料に天然の高分子であるセルロースが使われたため、半合成樹脂とも言われます。完全な合成樹脂は、アメリカの化学者のベークランドが1907年に発明したとされるベークライト(フェノール樹脂)です。そしてこの物質が、天然樹脂である松ヤニと同じような外観を持っていたことから、合成樹脂と言われるようになりました。

(写真1)身の回りのプラスチック製品。スーツケース、ゴミ箱、ポリ袋、食器類、歯ブラシ、文房具類、衣類、ストッキングなど。写真の衣類は、プラスチックを繊維状に加工した合成繊維で作られている。

プラスチックの構成元素:炭素

簡単に色を付けたり、形を変えたりできるプラスチックの登場によって、色とりどりの日用品や、面白い形の文房具やおもちゃが作られるようになりました。ただ、一見どれも同じように見えるプラスチックですが、その種類は70以上あると言われています。それぞれどのくらいの熱や衝撃に耐えられるかといった特徴、製造にかかるコストが違うので、家庭用、産業用といった用途に見合ったものが選ばれます。

たくさん種類のあるプラスチックのうち一部を挙げますが、構造式にはどれも炭素(C)が含まれています。炭素は主要な構成元素だということがわかるでしょう(図1)。

樹脂名 構造式 用途例
ポリエチレン(PE)
ポリプロピレン(PP)
ポリ塩化ビニル(PVC)
フッ素樹脂
ポリスチレン(PS)  

図1:いろいろなプラスチックの化学式と使用例 nはカッコ内がいくつ連なっているかを表す数字。プラスチックは、nが範囲をもった混合物。いずれもCが骨格を作っているのがわかる。(化学式の提供:depositphotos)

なお、炭素繊維強化プラスチックのように、プラスチックを構成している炭素とは別に炭素繊維と組み合わせることで強度を増したプラスチックもあります。これは強いだけでなく軽いことから、飛行機の翼に採用され、飛行機の燃費の向上に貢献しています。

日本でプラスチックが本格的に工業化されてから60年ほどしか経っていません。しかし、数千年の歴史がある金属などとともに、プラスチックは私たちの日常生活とは切り離すことが出来ないものになっています。私たちが暮らしている便利で豊かな社会は、プラスチックに支えられていると言っても過言ではありません。

最後になりますが、私たち人間の身体を作っているタンパク質、これを構成しているアミノ酸の骨格も実は炭素からできています。植物を構成するセルロースやデンプン、液晶テレビのディスプレイ、電車、自動車、タイヤ、紙、薬、パソコン、食品容器、浴槽、スポーツ用品、消しゴムといった文具まで・・・炭素はあらゆるものを構成する基本元素です。まさしく、「炭素原子はこの世界を形作っている」と言っていいのかもしれませんね。

 

参考資料

『図解でわかるプラスチック』SoftBank Creative、2008
『よくわかる最新 プラスチックの仕組みとはたらき』秀和システム、2011
JXエネルギー石油便覧:
http://www.noe.jxtg-group.co.jp/binran/part03/chapter01/section01.html
森永製菓プロテインポータルサイト:
http://www.weider-jp.com/protein/columns/detail/?id=20&category=health
http://www.city.ota.gunma.jp/005gyosei/0070-009kenko-dukuri/kenkocenter/files/mikata.pdf
プラスチック素材辞典:http://www.plastics-material.com/
日本プラスチック工業連盟 くらしの中のいろいろなプラスチック

 

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池田亜希子

サイテック・コミュニケーションズに勤務。ラジオ勤務の経験を生かして、 現場の空気を伝えられる執筆・放送(科学関連)を目指している。