LEDの登場で地球にやさしくなったイルミネーション 青色LEDに欠かせないガリウム(Ga)


写真1:クリスマスイルミネーション(Photo ac)

LEDの登場で豪華さを増すイルミネーション

今年も残すところ、あとわずか。この時期になると、いろいろなところでクリスマスイルミネーションが灯ります(写真1)。楽しみにしている人も多いと思いますが、私もそんなイルミネーション好きの一人です。かつては、東京ミレナリオにわざわざ足を運んだこともありました。

明かりには温かさがあって、寒さが和らぐように感じられるので、冬にイルミネーションが多いのは納得です。そういえば、以前に比べるとずいぶん明かりの数が増えて、華やかなイルミネーションが多いようです。そればかりか、冬以外の季節にもイルミネーションが灯されるケースが増えていて、「イルミネーションの二期作」などといわれているようです。二期作どころか、“年中”という場所もあります。

明かりの数が増えたり、イルミネーションの二期作が行われるようになったりしているのは、“明かり”が省エネで長持ちするようになったからです。その背景には、LEDという新しい明かりの誕生があります(時々、せっかくのLEDの良さを、イルミネーションを増やすのではなく省電力につなげたらいいのにと思ってしまうこともありますが…、それは無粋な考えかもしれませんね)。そこで今回はLEDと、それに関わる元素 ガリウム(Ga)について考えることにしました。

新しい明かりLEDとガリウム

これまで人間はさまざまな“明かり”を手に入れてきました。もっとも古いものは、木材を燃やした炎だったと考えられます。その後、ロウソク、石油ランプ、ガス灯が使われるようになりました。電気が使えるようになると、電気エネルギーを光に変換する白色電球や蛍光灯、LEDが登場しました。

LEDとはLight Emitting Diodeの略で、日本語では発光ダイオードといいます。電流を流すと発光する半導体の一種です。「省エネで長持ちする明かりだ」などといわれますが、こうした特長にはLEDの光る仕組みが関係しています。

ダイオードとはP型の半導体とN型の半導体を接合したもので、P型半導体には「正孔」といわれる電子が抜けた穴が、N型半導体には「電子」が多く存在しています(図1)。そこに電流を流すと正孔と電子が移動してぶつかり、結合します。これを再結合といい、この時に余分なエネルギーが放出されます。このエネルギーが光に変換されて光るものを、特に“発光ダイオード(LED)”と呼びます。

図1:白熱電球とLEDの発光の違い(イラスト:Depositphotos.com)。白熱電球ではフィラメントが発光する。一方、LEDは、内部にあるLEDチップのP型半導体の正孔(+)とN型半導体の電子(-)が再結合することで発光する。

この発光のメカニズムでは、熱が発生することがなく、エネルギーは効率よく光に変換されるため、結果的に省エネにつながっています。また、従来の電球では、発光によってフィラメントの素材が消耗されるため、いつしか切れてしまいますが、LEDは素材の消耗が少ないので長持ちするのです。

このようにLEDはたいへん優れた明かりですが、用途を広げるには、いろいろな色の光をつくれなくてはなりませんでした。LEDの開発の歴史は、光の3原色である赤、緑、青を実現させる歴史だったといえるでしょう(図2)。LEDの出す光の色は、半導体をつくっている元素の種類で決まるので、もっとも適した元素の組み合わせを探す、激しい研究開発競争が繰り広げられました。

図2:光の3原色。赤、緑、青の3色があれば、どんな色でもつくることができる。

ところで、青色のLEDの開発では日本人3人が2014年にノーベル物理学賞を受賞したことは、多くの方がご存知のことでしょう。赤と緑のLEDが1960年代には発明され、70年代には実用化も進む中で、青色はなかなかつくり出せませんでした。それを1993年に、窒化ガリウム(GaN)の半導体で実現させ、さらに実用化にまで漕ぎつけたのが、この3人でした。これによってLEDは3原色が揃い、その応用範囲は一気に広がりました。

青色LEDの開発が困難を極めた原因は、青い光のエネルギーが赤や緑より高かったことです。光の色は、光のもつエネルギーによって変わります。LEDが正孔と電子が再結合したときに発するエネルギーは、LEDがどのような元素からできているかによって変わります。つまり、青い光の高いエネルギーに耐えられる強さをもち、十分な輝度の青色の光を発することのできる半導体材料を開発することが難しかったのです。

この問題を解決したのが、窒化ガリウム(GaN)という材料でした。しかし、この材料もなかなか厄介で、LEDをつくることのできるきれいな結晶をつくるのに行った実験回数は1500回を超えたと、ノーベル賞を受賞した天野浩・名古屋大学教授は当時を振り返って話しています。さらに、きれいな結晶ができてからも、なかなかP型半導体をつくることができずまた苦労したといいます。このような、いくつもの困難を乗り越え、明かりの世界に革命をもたらしたとして、青色LEDの開発はノーベル賞に値すると評価されたのです。

2019年は国際周期表年
周期律発見150周年をお祝いしましょう。

最後にガリウムがどのような金属かを紹介して、2018年のブログを締めくくりましょう。日常生活で、ガリウム単体の金属に出会うことはおそらくないでしょう。もし幸運にも出会えたとしたら、それは青みがかった銀色をしているそうです。そして、それが夏の暑い日の出来事であったとしたら、融点29.78 ℃のガリウムは液体の姿をしているでしょう。液体の金属といえば水銀ですが、毒性のある水銀に対して、ガリウムの液体には毒性はないとされますから、ご安心ください。ただし手などで触れると焦げ茶色のシミがついてしまうので、軍手をして扱うことをお勧めします。

さて、来年2019年は、ドミトリ・メンデレーフが周期律を発見して150年という記念すべき年です。今回紹介したガリウムは、元素を原子番号の順に並べるとその性質が周期的に変化するという法則“周期律”に気づいたメンデレーフが、その存在を予言し、その後、発見された元素です。つまり、周期律の正しさを世の中に認めさせるきっかけとなった重要な“元素”なのです。

国際連合は2019年を国際周期表年(International Year of the Periodic Table of Elements; 通称IYPT2019)として祝おうと宣言しています。このブログを配信している高純度科学研究所でも、いろいろと国際周期表年にまつわる催しを計画しているようですので、ぜひ、チェックして参加してみてください。

それでは一年間、読んでいただきありがとうございました。そして良い周期表年をお迎えください。

図2:周期表(周期律に従って、同族(縦に並んでいる)の元素は性質が似ている)
iseri氏による”元素の周期表” ライセンスはCC BY-SA 4.0 (出典:WIKIMEDIA COMMONS)

 

【参考資料】
『元素の事典』朝倉書店、2011年
「LEDが生んだイルミネーション業界に山積する課題」(経済界、2018年11月):http://net.keizaikai.co.jp/archives/14948
イルミネーションを飾るなら白熱灯よりLEDライトをオススメする4つの理由(イルミラボ、2018年11月):
https://www.sparkling-lights.jp/labo/knowledge/306/
「LEDの発光原理~LEDの豆知識~」(オージェック、2018年11月):http://www.ohjec-led.com/blog/post-3/
「LEDの歴史~LEDの豆知識~」(オージェック、2018年11月):http://www.ohjec-led.com/blog/post-2/
「LEDの基礎知識」(Panasonic、2018年11月):http://www2.panasonic.biz/es/lighting/led/led/index.html
国際周期表年2019:http://iypt2019.jp/

 

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池田亜希子

サイテック・コミュニケーションズに勤務。ラジオ勤務の経験を生かして、 現場の空気を伝えられる執筆・放送(科学関連)を目指している。