原子番号113のニホニウム(Nh)は理化学研究所で合成され、日本で命名された最初の元素。名称の決定までは暫定名としてウンウントリウム(Uut)や、原子番号81のタリウム(Tl)と同族であることからエカタリウムと呼ばれていました。 |
新元素の合成方法
天然に存在する元素は原子番号92のウラン(U)までで、93のネプツニウム(Np)以降は全て人工的に合成されたものです。原子物理学者キュリー夫妻の娘夫婦であるジョリオ・キュリー夫妻は、1934年 原子番号5のホウ素10Bにα線(ヘリウムの原子核)を照射して原子番号7の窒素13Nをつくり出しました。
以後、欧州を中心に原子核の衝突でウランより重い元素を合成する実験が行われ、核分裂の研究とともに現代の錬金術とも言える新元素合成の研究が進展したのです。
ニホニウムの誕生
理化学研究所の新元素合成研究は、1990年代後半に「ジャポニウム計画」として始められました。森田浩介(九州大学教授)らサイクロトロン研究室のチームは、2004年9月 原子番号30の亜鉛70Znの原子核を原子番号83のビスマス209Biに衝突させることによってウンウントリウム(Uut)の合成に成功したのです。
70Zn + 209Bi → 278Uut + 1n (数字は質量数 nは中性子)
実験では、線形加速器(RILAC 全長40m)で光速の10%に加速された亜鉛の原子核がビスマスの標的に毎秒2.8兆個、80日間にわたり約1700京回照射されました。想像を絶する回数です!
278Uutは2004年7月23日、2005年4月2日、2012年8月12日に1個ずつ計3個が観測され、1万分の3.4秒という短寿命で、α崩壊の結果 278Uutから6回のα崩壊を経て原子番号101のメンデレビウム254Mdになったことが確認されました。
278Uut → 274Rg → 270Mt → 266Bh → 262Db → 258Lr → 254Md
一方で2003年8月、米ローレンス・リバモア国立研究所と露ドゥブナ合同原子核研究所の合同研究チームは、原子番号95のアメリシウム243Amと原子番号20のカルシウム48Caから原子番号115のウンウンペンチウム(Uup)の合成に成功し、翌年2月にはUupのα崩壊で生じたUutを0.48秒間観測したと発表しました。米露チームはさらに2006年6月、ネプツニウムとカルシウムからUutの合成に成功し、正に理研チームが合成したUutの存在が検証されたのです。
2015年12月31日、国際純正・応用化学連合(IUPAC)により理研チームに新元素の命名権が与えられ、理研チームは2016年6月に提案しました。そして待ちに待った11月30日、元素名ニホニウムと元素記号Nhが正式決定されたのです。
ニホニウム通り
埼玉県の和光市駅(東武鉄道東上線)から理化学研究所までの歩道(約1.1㎞)は「ニホニウム通り」と呼ばれています。この歩道は、113番元素がニホニウムと命名されたことを受けて、和光市が理研新元素発見記念事業の一環として整備したものです。
愛称は「ニホニウム通り」、「113ストリート」、「理化学の小径(こみち)」、「理研通り」から投票で選ばれました。イチョウが美しい散歩コースにもなっていますので、新元素発見に思いを巡らせながら歩いてみるのもいいですね。
理化学研究所は2017年3月に創立百周年を迎え、さらに119番、120番元素の合成に挑戦しています。
上 :周期表とニホニウム
左:ニホニウムのモニュメント 右:路面に設置された水素の銘板(一辺30cm)
参考文献
「世界で一番美しい元素図鑑」T.グレイ著,武井摩利訳(創元社,2010年)「元素118の新知識」桜井弘著(講談社ブルーバックス,2017年)
園部利彦
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