実験講座 番外編 アメリカ、サンフランシスコ湾での天然塩づくり

今回は意外なアメリカカリフォルニアの側面、天然塩づくりについて紹介しよう。さて、次のカラフルな写真だけを見て、それが何だか想像できるだろうか?サンフランシスコ国際空港に到着する飛行機が南から着陸する場合、季節にもよるがこのカラフルな海面(Salt Pond、塩の池とも呼ばれる)を見ることができる。

 

California州San Francisco湾にかかるDumbarton BridgeまたはNewark市界隈で見られる海面の様子
(Wikipediaより)Doc Searls による、ライセンスはCC BY 2.0
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Salt_evaporation_ponds_on_San_Francisco_Bay.jpg

 

実際に写真家兼パイロットのRobert Campbell氏が「Art from Salt―塩の芸術―」としてカラフルな写真とともに記事を書いているので参考にされたい。アメリカは世界で8番目の塩の輸出国(2021年時点)とカウントされており、塩づくりは海水からの天然塩製法、化学的な製法を含めて大変盛んである。アメリカで作られた塩はカナダ、メキシコ、中国、ヨーロッパなどに輸出されている。筆者が滞在しているカリフォルニア州のベイエリアも塩づくりが盛んな土地のひとつである。このカラフルな写真に見られるような塩の池は地図上の赤で囲んだところ(Newark市)に位置している。

 

シリコンバレーに位置する塩づくりの場所

(Wikipediaより)Mliu92による、ライセンスはCC BY-SA 4.0
https://en.wikipedia.org/wiki/San_Francisco_Bay_Salt_Ponds#/media/File:Location_Map_San_Francisco_Bay_Area.png

 

ここではCargill社(農業、食品、化学分野)が約50平方キロメートル(約5000ヘクタール)の面積の塩の池から、年間50万トンの塩を作っている。いわゆるシリコンバレーに位置するFacebookの本社からすぐ近くのDumbarton Bridge(ダンバートン橋)を渡ったところにそのCargill社の塩工場がある。またこのDunbarton Bridgeの周りは湿地帯になっており、多様な鳥たちが生息あるいは移動してくる場所で、ドン・エドワーズ サンフランシスコ湾国立野生生物保護区として国から指定を受けているほどである。このサンフランシスコ湾は、サンフランシスコ市の北側で太平洋に通じているものの、内湾になっているため大波や津波が来ることもなく広域な浅瀬が続いている。塩池での塩づくりは3,4年かけて太陽と風の力で水を蒸発させてゆっくりと塩を濃縮して、乾燥させて作られる。なぜ海面がこのようにカラフルになるのかはとても不思議である。詳細はCargill社の塩の特設ページおよび、ABCテレビの取材のビデオ(YouTube)を参考にされるとよいだろう。

筆者の調査によると、いわゆるアオコのような緑色の微生物かあらDunaliella Salinaと呼ばれる赤色の微生物など、塩分濃度によって生育する微生物の種類が変わり、浅瀬の海底の色だけではく微生物の色が反映しているようである。このあたりでは、黄色、ピンク、黄緑、紫、赤、緑とまさしく虹色のような色を同時にあるいは時間変化で見ることができる。Cargill社のWebページの記載によると、塩分濃度が低いと青、緑色で、塩分濃度が濃くなっていくとピンク、赤、さらに飽和になるとオレンジ色になると説明されている。

筆者は実際にその工場の敷地内に足を踏み入れて塩の山の写真を撮影してみた。まさしく雨が少なく、年中乾燥している気候だからこそ、このように外で水に溶けやすい塩を山積みできるに違いない。

Cargill社の塩工場に山積みにされた塩(筆者2024年2月撮影)

これらの塩は熱消毒よび精製の工程を経たあと製品として出荷される。アメリカにおいて塩は化学用、農業用、食品用など幅広い分野で使われている。現在では塩を希釈して農作物に与えることで生育の促進が期待できるものがあり、まれではあるが地質によっては土壌改良剤としても使われることもあるそうだ。

化学的な塩の用途としては、塩素化合物(塩素ガスその他)、ナトリウム化合物(水酸化ナトリウムその他)への転換が大半を占めており、塩素の一部はポリ塩化ビニルの製造に必要とされる。アメリカでは地質学的に硬水が多いため家庭用、自治体の浄水場での軟水化のために陽イオン交換樹脂が多く用いられているがその樹脂の再生のためにも塩が用いられている。

 

参考文献

Cargill, SAN FRANCISCO BAY SALT PONDS

https://www.cargill.com/page/sf/sf-bay-salt-ponds

 

Cargill社塩工場の取材ビデオThe Bay Area’s salty secret, ABC10

https://www.youtube.com/watch?v=3OjF6J89DNI

 

Sounding Journal, Art from Salt by Robert Campbell

https://soundingsmag.net/2019/08/30/art-from-salt/

 

Wikipedia, San Francisco Bay Salt Ponds

https://en.wikipedia.org/wiki/San_Francisco_Bay_Salt_Ponds

 

Where does salt come from? Digging into the process of salt making.

https://www.usatoday.com/story/life/food-dining/2023/08/13/where-does-salt-come-from/70458930007/

 

デビット・E・モース著、「アメリカと世界の塩事情」、日本海水学会誌第40巻、第5号、p.297-310(1987)

松浦正敏ら著「アメリカ合衆国における塩事情調査」、海水総合研究所 研究報告、第14号、p.48-53(2009)

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。