元素記号Sn、元素番号50の元素、錫(スズ)。スズの利用は数千年も前にも遡る。紀元前3000年頃にメソポタミアにおいて初めて青銅が開発されたといわれる。スズは、石器時代から一気に人類の道具の活用の幅を広めた元素でもある。しかし世界の中でスズの産出場所は限られていて、どこにでもあるわけではない。日本には中国から1300年ほど前に遣唐使によって青銅が伝わり、日本でも盛んにつくられるようになった。
スズは融点が232℃と比較的低く加工しやすい安定な金属材料である。合金として例えば、楽器(パイプオルガン)、メッキ(ブリキ)、ハンダなど幅広い用途に用いられている。
また、スズは既知の元素のうち安定同位体が最も多い。原子核が安定になる陽子数や中性子の数のことを「魔法数」と呼び、自然界に安定して存在する約270種類の原子核では、2、8、20、28、50、82、126などが知られている。スズは魔法数の50の原子番号(陽子数)を持ち、28種類の不安定同位体の中には、陽子数が50個、中性子数も50個という“2重の”魔法数をもつ同位体100Snも存在する。
錫器
写真提供ご協力:大阪錫器株式会社 http://www.osakasuzuki.co.jp/
錫石(ボリビア、ワヌーニ産、主成分は酸化スズSnO2)
写真提供ご協力:鉱物たちの庭のページ管理人http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery2/130cass.html
実験1 青銅鏡を作ろう
銅とスズを溶かして合金(青銅)を作り、よく磨くと鏡を作ることができる。中国から伝わったと言われている青銅鏡を模して作ってみよう。材料や道具として必要なのは次の通り。スズ(スズは鉛フリータイプのスズ99%のハンダでも代用できる)、銅の粒または板を細かくしたもの、磁性の加熱容器(豆炭で代用可)、耐水ペーパー数種類(例えば#150、#600、#1200など1枚ずつ)、ピカール(研磨剤)、溶融させるためのガストーチまたはガスバーナー、混ぜるための金属ピンセット(るつぼばさみやラジオペンチでもよい)、ステンレスのバット(レンガでも代用できる)1つ。
磁性の容器にスズを入れて溶かす(豆炭を容器に使う場合には、カッターナイフなどの道具を使って、豆炭に平坦なくぼみを作り、そこで溶融する)。ここにスズ20 gを入れる。ガストーチでスズを溶かし、そこに銅15 gを入れて、金属のピンセットやるつぼばさみなどを使って混ぜる。スズと銅の割合は色々と変えられる。豆炭を利用する場合にはこの半分くらいの量で行うとよい。完全に溶けて混ざったら、ステンレスのバットの上に流して平らな塊にする。十分に冷えてから、平らな面を耐水ペーパーの粗いものから順に磨いていき、最後にピカールで研磨すると、鏡のような面を得ることができる。
(左)溶融して合金を作る様子 (右)ステンレスの容器に合金を流した様子
写真・情報提供ご協力:ふたばのブログ管理人 https://futabagumi.com/archives/762.html
【注意】保護メガネや軍手や皮手袋を着用する。十分に喚起を行い、火傷をしないように注意する。
実験2 美しいスズ樹の成長実験
2種類の金属のイオン化傾向の違いを利用して、イオン化傾向の高い方の単体の上にイオン化傾向の低い方の金属の水溶液からその金属の単体を析出させることができる。その金属の結晶が樹枝状に成長することから、これを金属樹と呼ぶ。ここではスズ樹のつくり方を紹介する。
ろ紙を使う方法
0.1~0.4 mol/L塩化スズ(Ⅱ)水溶液5mLをシャーレに取り、そこに1枚のろ紙を浸す。約5 mm角の亜鉛片またはアルミニウム片を置き、しばらく放置するとスズ樹の成長を観察することができる。次の反応のように、イオン化傾向がより小さいスズ Sn が還元されて亜鉛の表面に析出する。
Zn → Zn2+ + 2e–
Sn2+ + 2e– → Sn
寒天を使う方法
美しい金属樹を長時間保持したい場合、寒天を使う方法がおススメ。ビーカーに水70 mLを入れて沸騰させながら寒天約1gを少しずつ入れて完全に溶かし加熱をやめる。そこにグリセリン30 mLを加えてよく混ぜたあと、塩化スズ(Ⅱ)二水和物2.25 gを加えてよく混ぜる。この溶液を透明のプラスチックカップなどに入れるか、人数が多く一人一人で観察したいときには、いくつかのペットボトルのキャップに入れて、亜鉛片またはアルミニウム片を差し込んでそっと置いておくとスズ樹の成長を観察できる。グリセリンを加えると寒天の透明度が増し、カビが生えるのを抑えることができる。
電気分解を使う方法
小型のシャーレ、ステンレス製クリップ2つ、ミノムシクリップ、9V形の乾電池一つを準備する。上と同じく、塩化スズ(Ⅱ)二水和物2.25 gを70mLの純水に溶かす。このとき若干濁るのは、Sn(OH)Clの白色沈殿によるもので、濃塩酸2,3滴を加えると平衡移動によって溶解させられる。この透明の溶液をシャーレにいれ、クリップをシャーレの壁に付けて電極とし、ミノムシクリップで9 Vの乾電池につなぐ。陰極では、電子の供給によってスズイオン(Sn2+)強制的に還元析出が促され短時間で大きなスズ樹の結晶の成長を観察することができる。
【注意】保護メガネやディスポーザブル手袋を着用する。また感電などをしないように十分に気を付ける。
シャーレに電極(ステンレスクリップ)をセットした様子
あっという間にスズ樹が形成される様子
動画・写真ご提供 都留文科大学教養学部学校教育学科 特任教授山田暢司先生
参考文献・参考サイト
大阪錫器株式会社のホームページ
http://www.osakasuzuki.co.jp/
桜井弘「元素111の新知識(ブルーバックス)」、講談社、1997年
荘司隆一、「金属樹の成長の様子の観察」、化学と教育62巻10号(2014年)p.496-497
理科実習助手のための実験準備マニュアル、第5章おもしろ科学20.青銅鏡を作ろうhttps://www.hyogo-c.ed.jp/~rikagaku/jjmanual/jikken/omo/omo20.htm
理科教育と道徳教育を科学するふたばのブログ~銅鏡(青銅)を作る実験~
山﨑 友紀
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