白い金?~白金を使った実験~

元素記号Pt、原子番号78の元素、白金。その漢字には白いきんと書かれているものの、ジュエリーとして使われる「ホワイトゴールド」とは違う。英語のPlatinumはスペイン語の銀Plataの小さいものの意味、から来ている。ちなみにホワイトゴールドは、いわゆる18K(24Kが純金100%を示すので、18Kは75%が金の合金で25%は別の金属を含むもの)の仲間だ。

白金の結晶
白金の結晶

Periodictableru による”Crystals of pure platinum grown by gas phase transport.”ライセンスはCC BY-SA3.0 (Wikimedia Commons)

ホワイトゴールドは白っぽい色を出すために、他の金属として白色系の金属が混ぜられる。例えばその合金率の一例としては、金:ニッケル:銅:亜鉛=75:14:8:3などがある。白金も金と同様に純粋だと、日常の使用に耐える硬度や強度が出ないため、ジュエリー用には他の金属、例えば約10~15%のニッケルやパラジウムなどが混ぜられて使われる。白金の合金は千分率(‰、パーミル)で表記される習慣があり、白金の含有量に応じてPt1000(白金100%)、Pt900(白金90%)、Pt850(白金85%)のように示される。

白金は貴金属の中でも不活性で耐薬品に優れ、また触媒作用があることなどから、ジュエリー以外にも用途がたくさんだ。電池の電極や、化学合成反応の触媒、抗菌剤、がん治療薬などに利用されている。
気になる白金のお値段だが、貴金属相場におけるグラム単価は10~20年前には金の2倍ほどもあったのだが、2020年現在は金の半分くらいの値段である。クレジットカード会社のプラチナカードがゴールドカードよりもランクが上なのはいまだに変わっていない。

 

実験1 連続発火実験 ―炎がついたり消えたり―

準備するものは、白金線(0.3または0.5 mm直径×約10 cm長さ)、コニカルビーカー、メタノール、ガスバーナー。実験台に可燃物のないようにし、換気のよいところで実験する。

この実験は、白金を触媒としたメタノールの燃焼反応が基本となる。コニカルビーカー 白金の実験コニカルビーカーに下から1 cmほどの高さになるようにメタノールを注いでおく。白金線の先端を約10 mm直径くらいの輪になるように形を整える。輪になったところが液面から1 mmくらいのすれすれの高さに水平になるようにする。白金線の輪になっている部分と反対側は、コニカルビーカーに引っ掛けられるような形にする(写真参考)。うまくひっかけられるかどうか、液面からぎりぎり上にあるかを確認しておく。

白金線の輪になっている部分をガスバーナーの炎であぶって、赤くなるまで加熱する(数秒で赤く灼熱する)。次に炎の外で10秒数えながら冷ます。白金線をコニカルビーカーにさきほどと同じような状態になるように引っ掛けると、そのあと連続発火を観察できる。

最初は、白金線が赤くなったと思ったら、メタノールの蒸気が白金線の輪の部分で燃焼反応を起こし、炎が発生する。ビーカーの炎は少ししたら消える。また、すぐに白金線の輪の部分が赤くなって再び発火する、そして消える。というふうに、白金の灼熱→発火→消火、の繰り返しを観察することができる。白金線の劣化を防ぐために、三回ほどの発火を観察したら、白金線を外に出して終了するとよい。

メタノールの酸化の反応機構については多くの研究者が論文を出していて、近年ではメタノールがアルコール自動車や、燃料電池の燃料としても利用可能なことから白金電極上での酸化反応機構についても多くが発表されている。この連続発火実験では、メタノール蒸気が白金の触媒作用によって、2CH3OH+O2 → 2HCHO+2H2O (1) で示される発熱反応が進行して白金を赤熱させる。その熱によってメタノールが空気中の酸素と結合して、CH3OH+O2 → CO2+2H2O (2) で示される反応により炎を発生させる。いったん燃料または酸素の供給バランスが悪くなり炎が消える。その後、また(1)の反応、(2)の反応を繰り返す、と考えられる。銅などの白金よりも熱伝導率の高い金属線では、同じ実験を行うのは難しい。

写真および情報提供ご協力:ふたばのブログ
動画提供ご協力:日本分析化学専門学校

 

実験2 白金るつぼを長持ちさせるコツとよみがえらせる方法

白金は高温においても酸化しにくく、フッ酸(フッ化水素酸)にも耐えられるほど耐薬品に優れる金属のため、ケイ酸塩などガラスやセラミックなどを溶解するときの「るつぼ」(漢字では「坩堝」と書く)としても重宝される。いくら優れモノの白金るつぼであっても、その高額な値段から大切に扱いたい。実験での扱いに注意が足りないと、気付いたときには表面が劣化していたり、底に穴があいてしまったりする。以下、いくつか白金るつぼを扱う際の注意点を挙げてみる。

白金は高温ほど、軟化や酸化がしやすくなり、重金属と合金をつくりやすいことを知っておいた方がよい。重金属が共存する場合にはできるだけ還元性を持つ不純物(紙屑などの有機物など)の混入を避ける。またステンレスなどの普通のピンセットでつかめば、その部分が合金になってしまうので白金メッキをしたピンセットを使用する。

硫黄SやリンPを発生させる物質も白金るつぼで扱うのはよくない。リン酸マグネシウムアンモニウムMgNH4PO4・6H2O(MAP)を やいてピロリン酸マグネシウムMg2P2O7にするとき、還元剤となる不純物(紙など)が入っているとPtP2がつくられてもろくなる。高温では、KClO3、Na2O2、NaOH、KOH、シアン化物、フェロシアン化物などの溶解や、高温での硫酸、硝酸、塩酸の組み合わせも白金表面を酸化させるなどして劣化することがわかっている

白金るつぼの表面がくすんでいるときは、重曹などで磨くのが効果的で、また内面にこびりついたものはKHSO4を溶融材として徐々に温度を上げて300℃くらいで溶かすと洗浄することができる。

また、古くなった白金るつぼを、鋳造しなおして新品のるつぼに生まれ変えることが出来る。これを改鋳(かいちゅう)という(写真参考)。実際には、老朽化した白金るつぼを業者に預け、そのるつぼの不純物をのぞいた純粋な白金分の重さが測定される。「擦り減ってしまった分の材料代」+「加工費等」で新品を手に入れられるサービスだ。回収したるつぼはバーナーで溶かされ、その後「王水」で溶かし精製して、新しい製品にうまれ変わる。

写真および情報提供ご協力:アズワン株式会社

 

実験3 燃料電池に欠かせない白金、節約できる方法あり!?

燃料電池の高性能化とコスト低減につながる朗報!燃料電池は他の発電システムに比べると高効率でハイパワー、基本的にはCO2を排出しない、という次世代型のクリーンエネルギー源として期待されている。近年では自動車用、携帯機器用などですでに利用され始めている。今後、幅広く使われるためにはコストの削減や耐久性の向上などの工夫が不可欠だ。

固体高分子型の燃料電池には、白金ナノ粒子を分散させた触媒が使用されている。まだまだ白金は高価なため、コスト削減のためにはとにかく白金量を減らす必要がある。さらに、白金粒子に水分子が吸着すると過電圧が発生して、燃料電池の出力パワーが低くなるため、水分子の吸着させない技術が求められている。図では電池の中での物質移動と、白金触媒の表面で酸素が水と同時に吸着する様子が描かれている。

東京大学物性研究所の原田慈久准教授らの共同研究により、電極中の白金ナノ粒子の表面が、酸素が水と共存することによって酸化が促進され、燃料電池の性能低下に繋がることが世界で初めて、実験的に明らかになった。

研究グループは、白金ナノ粒子および、白金コバルト合金のナノ粒子の両方について水分子の吸着について調べてみた。白金コバルト合金の方は、酸素と水の共吸着による酸化促進効果がほとんど起こらないこと、そして、ナノ粒子のサイズが大きくなれば、水の酸化促進効果が減衰することも見つけることができた。

この研究の成功は、高分解能型の蛍光X線吸収分光法によって、白金ナノ粒子の酸化状態を丁寧に解析すること、がカギとなった。

この成果により燃料電池の高性能化とコスト低減が可能となり、さらなる燃料電池が普及することが期待される。高分解能型の蛍光X線吸収分光法は、大型放射光施設 SPring-8(スプリング8、兵庫県佐用町)のビームラインBL11XUで実施された。

燃料電池の中での燃料などの物質移動の様子

燃料電池の中での燃料などの物質移動の様子

白金と白金コバルト合金における水吸着、酸素+水共吸着の模式図

白金と白金コバルト合金における水吸着、酸素+水共吸着の模式図。

図面および情報提供ご協力:東京大学物性研究所

 

 

 

参考文献
桜井弘、「元素111の新知識(ブルーバックス)」、講談社、1997年

カンダダイアモンドのHP、白金とホワイトゴールドの違い
http://www.kanda-diamond.com/bbp02.php?itemid=99

日本マテリアル 貴金属相場情報のページ
https://www.material.co.jp/market/

長島弘三、「るつぼの取扱いについて」、p. 395-400、分析化学4巻6号、1955 年

加藤多喜雄、「解説 沈澱法概説(III) 秤量形」p.466-467、分析化学7巻7号、 1958年

松本健、「解説 難溶解性物質の分解法」p.61-66、ぶんせき、2002年

小熊 幸一、「失敗から学ぶ分析技術のコツ 無機分析における前処理」、p.2-8、ぶんせき、2007年

ふたばのブログ〜理科教育と道徳教育を科学する〜
白金(プラチナ)の触媒効果「連続発火実験」

白金(プラチナ)の触媒効果「連続発火実験」

日本分析化学専門学校発すぐできる★なるほど ザ化学実験室、実験B-36 <発火を繰り返す金属の巻>のページ
http://www.bunseki.ac.jp/naruhodo/experiment/expdetail.php?id=208

アズワン株式会社 こんなコトまでやってるんだBlog 白金製品 ~使用品の≪改鋳≫がオススメ~
https://www.as-1.co.jp/spg-blog/2019/07/post-34.html

アズワン株式会社 こんなコトまでやってるんだBlog 特注めっき承ります!~白金電極のめっき事例紹介~
https://www.as-1.co.jp/spg-blog/2019/03/post-28.html

国立研究開発法人理化学研究所(RIKEN)公益財団法人高輝度光科学研究センター (JASRI) SPring8 大型放射光施設プレスリリース・トピックス、燃料電池触媒の性能低下原因を解明
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2017/170508/

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。