昔は金よりも高価だった元素 ~銀を使った実験~

 

元素記号Ag、原子番号47の元素、銀。IOC(国際オリンピック委員会)の定める憲章によると、オリンピックの銀メダルには純度92.5%以上の銀が含まれていること、と定められている。2020五輪だけでなく、五輪銀メダルが100%の純銀のこともある。ちなみに、東京都の発案「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」により、2017年から2019年までの2年間で、2020年オリンピックとパラリンピックの金・銀・銅メダルあわせて約5千個に必要な金属量を、13万個を超える使用済みの携帯電話や小型家電から100%回収することができた。

世界遺産になった日本の銀の歴史銀の食器にまつわる話については各ページを参照してほしい。

銀は貴金属の一つであるが、他の金属元素に比べてイオン化しにくいことから、自然銀として天然に単体が存在することができる。まれに樹枝状になって発見されることもある。

上:自然銀と自然砒 ドイツ産(写真提供ご協力:鉱物たちの庭ホームペ-ジ管理者)

また硫黄、金、その他の金属との共晶として産出することもある。銀と硫黄の化合物である輝銀鉱(写真下)は、銀鉱石としてもっとも重要で組成式は Ag2S。

上:輝銀鉱/針銀鉱 メキシコ産(写真提供ご協力:鉱物たちの庭ホームペ-ジ管理者)

銀とアンチモンの硫化物である濃紅銀鉱Ag3SbS3(写真下)は「火の銀の石、yrargyrite」の意味の鉱石名を持ち、淡紅銀鉱Ag3AsS3と並んで「ルビーシルバー」とも呼ばれる。

上:濃紅新鉱 ペルー産(写真提供ご協力:鉱物たちの庭ホームペ-ジ管理者)

 

銀の歴史は長く、出土品などから紀元前約3000年から人類に利用されていたとされている。その昔から中世ヨーロッパ時代に至るまで、銀は金よりも珍しく、約2.5倍も高価な時期も長かったようだ。その後、新大陸から銀が採掘されて流通されるようになるとその値は下落してしまった。

金より安価になったとはいえ、銀の用途は幅広く、身近なアクセサリーや食器だけでなくあちらこちらで活躍している。例えば理科室でもメジャーな測定機器のpHメーターの電極には、銀/塩化銀電極が使われている。また、銀は私たちの生活や様々な科学技術を支えてくれている。ハイテク電子機器の各種部品、写真の感光材、殺菌消毒薬などに銀は利用される。また制汗剤、抗菌剤、消臭剤などに「Ag+」などの印字を最近はよく目にするだろう。銀イオンに消臭や抗菌効果があることは科学的に検証されている。また銀の合金は歯科材料でも活躍していて、銀の割合の高いものだと65%や73%のものもある。歯科材料合金の銀以外の金属としては、スズ、インジウム、亜鉛などが含まれる。

 

実験1 ペットボトルの中を銀メッキしよう

準備する試薬:

A:0.2 mol/L 硝酸銀水溶液+エチレンジアミン溶液(体積比1:1で混ぜたもの)

B:1.5%グルコース水溶液

C:1.0 mol/L 水酸化ナトリウム水溶液

上記の溶液を、500mLペットボトル一つにつき、A、B、Cとも5 mLずつ使用する。必要な分量だけを、実験の直前に調製して褐色瓶に入れて保存すると実験がスムーズになり、溶液も無駄なく使える。500mL ペットボトル:中身を飲用した後に丁寧に水洗し、反応の直前まで純水を入れて保管したものが望ましい。写真の手順に従い、次の手順で実験を行う。

1)AとBを入れて振り混ぜてから、Cを入れる。

 

 

 

 

2)少しすると液が茶色に変わる。

 

 

 

3)ゆっくりとボトルを回しているうちに銀色がつき始める。

 

 

 

4)ボトルの内側に銀めっきができる。

 

 

実験2 酸化銀の分解反応

1)1.0 g または2.0 g の酸化銀を乾いた試験管に取る。

2)試験管に気体誘導管を取り付け、底を少し上にしてスタンドに固定する(写真)。

3) メスシリンダーに水を満たして発生する気体を集められるように準備する。

4)ガスバーナーで酸化銀を加熱し、発生する気体を水上置換法で試験管(メスシリンダーでもよい)に集める。

5)気体が発生しなくなったら火を止める。試験管の中の金属光沢を確認する。

6)発生した気体が酸素であることを確認するために、火のついた線香を試験管の中に入れる。酸素の中で線香が激しく燃える。

写真・情報提供ご協力:三好美覚先生

 

実験3 黒くなった銀アクセサリーの輝きを復活させよう

銀のアクセサリーは比較的求めやすく、一つや二つ持っている人も多いだろう。どうしても日数がたつと、だんだんと黒ずんでくるのが銀アクセサリーのやっかいなところ。空気中のわずかな硫化水素H2Sと反応して黒い硫化硫黄で表面が黒色に変化する。単純に化学式で示すと次のようになるが、実際の反応機構はもう少し複雑であることが分かっている。

2Ag + H2S → Ag2S + H2

銀アクセサリーを磨くための専用クロスやポリッシャーが市販されているので、それで表面を物理的に研磨することもできる。しかし、ここでは化学的に表面の輝きを復活させてみよう。

食塩を入れたアルミニウム皿に熱湯を注ぐ

準備するものは極めて簡単。アルミニウム製の皿、食塩(または重曹)、熱湯だけ。黒ずんでしまったアクセサリーを、食塩(または重曹)小さじ1、2杯くらいを溶かしたお湯に数分~10分つけるだけでよい。注意して観察すると表面から気体が発生するのを観察できるだろう。実験は、なべに300 mLほどの水を入れ、食塩を溶かして軽く沸とうさせでから、なべ底にアルミホイル(15 cm×15 cm程度の大きさ)を入れる。

 

そこに純銀製の指輪を入れる

その上に銀のアクセサリーを浸して、10分ほどおくという方法でもよい。硫化銀がアルミニウムで還元されるという反応を利用している。

3Ag2S + 2Al → 6Ag + Al2S3

Al2S3 + 6H2O → 2Al(OH)3 + H2S

 

 

アルミニウムの方が銀よりイオンになりやすく溶けやすい性質を持つ。アルミニウムの存在下、銀が析出するとともに硫化アルミニウムが形成される。また、硫化アルミニウムは水と容易に反応して水酸化物になる。

写真・情報提供ご協力:株式会社icoro

 

参考文献
桜井弘、「元素111の新知識(ブルーバックス)」、講談社、1997年
南谷林太郎、「屋内大気環境での銀の腐食速度式の提案」、材料と環境、64(1)、p.14-19(2015)
荘司隆一、「酸化銀の熱分解」、化学と教育65 巻 5 号 p. 240-241(2017)
鉱物たちの庭ホームページ
67.自然銀と自然砒 Silver & Arsenic (ドイツ産)
http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery/067silver.html
750.輝銀鉱/針銀鉱 Argentite/Acanthite (メキシコ産)
http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery10/750acanthite.html
100.濃紅銀鉱 Pyrargyrite (ペルー産)
https://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery2/100pyrar.html
歯科材料の金パラ、純金、金合金、銀合金の紹介「銀歯科鋳造用銀合金・シルバー」
http://www.redcontraeltrabajoinfantil.com/silver_aloy
株式会社icoroホームページ「シルバーアクセサリの黒ずみを化学的に落とす方法」

シルバーアクセサリの黒ずみを化学的に落とす方法


三好美覚の理科の授業(酸化銀の分解)
http://www.dokidoki.ne.jp/home2/jr5bun/rikajyugyou/sankagin.html
岩手県立総合教育センター理科教育担当のページ、11ペットボトルの銀めっき ~金属光沢~
http://www1.iwate-ed.jp/tantou/kagaku/kagakukiso/kagakukiso%202/sapoto11.pdf

 

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。