コバルト(Co) ~銀を食らう山の精コボルト、印象派の画家たちも愛した青い元素~

 

元素記号Co、原子番号27番の元素。
その昔、ドイツザクセン地方の鉱夫たちが銀白色の鉱石を見つけ、銀を抽出できると喜んだがそれがかなわず、山の精コボルトが邪魔をしているのだと決めつけ、この種の鉱石の名前にしたと伝えられている。

ボートセーヌ川のほとり, c.1879ピエールオーギュスト・ルノワール作
出典:WIKIMEDIA COMMONS
Pierre-Auguste Renoi氏による“La Yole” ライセンスはPublic Domain

コバルトといえば“コバルトブルー”と呼ばれる色があるように、古くから人々はその美しい青色に魅せられてきた。コバルトブルーの色は青の定番とも言われ、ルノワール、ピカソ(青の時代)やモネ(水連の青)などの印象派の画家たちも愛したといわれている。絵画用の絵の具のコバルトブルーに似た青の原料としては、コバルト以外に、鉄や鉱石由来の顔料で青を表現することもある(プルシアンブルー、ラピスラズリ、ウルトラマリンなど)。コバルトは陶磁器用の青の釉や、色ガラスの青の原料としても有名である。コバルトによって8世紀ごろ中国の芸術家たちは磁器を細かく青に着色し、中世にヨーロッパでは芸術家が大聖堂の窓のガラスを着色した。

また生体にとって、コバルトはビタミンB12の中心元素としても知られており、ヒトだけでなく牛や家畜の貧血を防ぐのに必須であることがわかっている。

ビタミンB12の分子構造
出典:WIKIMEDIA COMMONS 
NEUROtiker氏による“Structure of cobalamin (vitamin B12) ” ライセンスはPublic Domain

工業的には、国内需要の約67%が二次電池用リチウム電池の原料に使用されている。そのほか特殊鋼(超硬工具鋼など)の精製に不可欠の金属でもあり、航空機のジェットエンジンやガスタービン、ロケット産業そして永久(アルニコ)磁石などにも利用されている。

実験1 カラフルなコバルト溶液

塩化コバルト水溶液に濃塩酸を加えていくと、写真のような色のグラデーションを見ることができる。

塩化コバルト水溶液に濃塩酸を加えた様子

まず左端の何も加えていない塩化コバルト水溶液は赤色(濃度が薄いとピンク)をしている。これは塩化コバルトが水に溶けて[Co(H2O)6]2のような水和イオンの状態になり、それが呈する色である。ここに濃塩酸を加えていくと,赤紫色から青紫色を経て青色に変化する。この現象は下に示す平衡反応が順にずれていき、最後的に[CoCl4]2によって青色を呈することによる。

[Co(H2O)6]2 + Cl ⇄  [CoCl(H2O)5] + H2O
[CoCl(H2O)5] + Cl ⇄ [CoCl2(H2O)4]  + H2O
[CoCl3(H2O)] + Cl ⇄  [CoCl4]2  + H2O

上記をまとめると次式になる。

[Co(H2O)6]2   + 4Cl  ⇄  [CoCl4]2-   + 6H2O

また、塩化コバルト水溶液は温度によっても色を変える。上記の平衡反応が高温では右の方向へ移動していくことによる。写真から、常温と約80℃程度に温めたときの色の違いの様子がわかる。

塩化コバルト水溶液(左:常温、 右:約80℃)

実験2 天気で色の変わるコースター

(左)塩化コバルト水溶液を紙コースターに塗布した直後
(右)上をよく乾かした状態

塩化コバルト水溶液をろ紙、または紙コースターに塗布し、一度アイロンまたはドライヤーなどによって乾かす。これを部屋などに吊るしておくと、空気の湿度によってピンクになったり青くなったりする。これは、食品の乾燥剤として利用されているシリカゲルの呈色用にも用いられており、同様の原理を利用したものである。

 

参考文献:
山口佳隆、「金属錯体の形と色」化学と教育 65 巻 4 号(2017 年):https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/65/4/65_198/_pdf
高木春光、「化学平衡 ―目で見る化学平衡の移動」化学と教育 64 巻 8 号(2016 年):https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/64/8/64_392/_pdf
鉱物たちの庭のホームページ、輝コバルト鉱:http://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery2/090cobolt.html
山口大学工学部学術資料展示館:http://www.msoc.eng.yamaguchi-u.ac.jp/collection/element_23.php
未知の色彩を求め、日本で入手困難な顔料で美しい作品を残したい:https://readyfor.jp/projects/soichi-eto/announcements/24878パブリックドメイン 世界の名画:http://www.bestweb-link.net/PD-Museum-of-Art/960/Renoir-Landscape/No.043.jpg

 

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。