石英の鉱脈に金が析出するわけ

金(Au)は錆びずにいつまでも光沢を保っていることから、古来貴重で高価なものとされてきました。金は特に近年高騰が続いており、2000年頃は1gあたり1000円前後であったのが、ごく最近は15000円/gを超える価格も記録しました。さて多くの金鉱山では、金は石英(水晶)の中に混じって産出されるそうです。たいていの場合は金の粒の大きさは極めて小さく、人が見て金と分かるほどではありませんが、時々写真(図1)のように目にみえる塊として石英に付着していることがあるとのことです。どうして金が石英と共に産出されるのかは謎とされてきましたが、オーストラリアの化学者がそれに対する解答に結びつきそうな研究成果[1]を発表しました。

図1 金の粒が付着している水晶。コロラド州イーグルマイン産。
iStockPhoto/Bjoern Wylezich

 石英は、圧電性を示すことが知られています。圧電性とは力を加えることで、電圧が発生する現象です。このような効果を示す物質は逆に電圧を加えると延びたり縮んだりする現象も示します。石英(水晶)のこのような性質は、正確なときを刻む水晶時計や、かつてよく用いられたクリスタルイヤホンなどで応用されています。
オーストラリアモナシュ大学のC. R. Voisey博士らは、石英と一緒に金の塊が出来ることは、石英の圧電性から説明できると考えました。地殻の奥深くで、金を含む溶液があり、石英が地震によって機械的な力がかかると電圧が発生し、これによって金が石英表面に析出するのではないかということです。このことを確認するために、研究者らは図2のような装置を作って実験を行いました。石英片を金の化合物(H[AuCl4])の水溶液に入れ、上部から垂直に振動する金属棒で振動を加えるという実験です。

図2 石英片に振動を加えて、地震を再現する実験。

 

毎秒20回の割で1時間衝撃を加えた後に、資料を分析すると石英表面に1μmほどの大きさの金の粒子が生成していることが分かりました。振動を加えない場合は全くそのような粒子の生成は確認できませんでした。さらに、周りを薄くイリジウム金属でコーティングした石英片を使った実験では、金の微粒子が直線上に並んで析出するような現象が観察されました。これはメッキで知られている現象だそうです。また、金のコロイド粒子(2-20nmのごく微細な金のナノ粒子)を含む水溶液を使った実験では多数の金ナノ粒子が石英表面に付着していることが分かりました。金のナノ粒子は一般に互いに結合しにくい性質があるのですが、石英表面の電圧のために、石英表面にかたまって析出したと考えられます。
これらの結果から、研究者たちは以下のような推論を得ました。石英にひずみがかかると石英片の一部には負の電圧が発生します。その電圧は金の水溶液から金の単体が析出するには十分な電圧です。そのために石英の表面で還元反応が起こり、金の微粒子が析出します。石英は電気を流しませんが金は電気伝導性があるので、一旦析出するとそこの部分で還元反応がより進みやすくなり、さらに金の粒子が成長するという考え方です。

図3 銅を電気分解によって精製するときの概念図。陽極(左)から銅や別の金属イオンが溶け出すが、銅のみが陰極に析出する。

 このことはメッキや銅の精錬を考えれば理解しやすいかもしれません。銅を精製して高純度の銅を得るために電解精錬が行われます(図3)。この場合不純物を含む銅を陽極とし、陰極には純粋な銅線を用います。銅イオンを含む水溶液中で両極に電流を流すと、陽極から銅が溶け出し、陰極に析出します。ただしそのとき電圧を加減すれば比較的還元されやすい銅のみを陰極に析出させることができるのです。これと同じような原理で金を含む溶液から金が析出するというのです。
Voisey博士は、金の鉱脈が形成されるには、何千回もの地震が必要だったのではないかと考えています。またさらに、「この研究は純粋に科学的な企画ですが、この結果は高品位の金の鉱脈を探すことにも役立つのではないか」とも言っています[2]。地震が金山を作るというのは面白いですね。日本はかつて黄金の国と呼ばれ、佐渡を始め金が多くの場所で取れました。現在も世界的に見ても高品位の金が九州の菱刈鉱山で採掘されています。これらの事実はひょっとすると日本が地震国であることと関係するかもしれませんね。ではまた次回。

 

[1] C. R. Voisey, N. J. R. Hunter, A. G. Tomkins, J. Brugger, W. Liu, Y. Liu and V. Luzin, Nat. Geosci., 2024, 17, 920–925.
[2] J. Robinson, Chemistry World, September 2024, Earthquake-induced electricity offers answer to mystery of gold nugget formation, https://www.chemistryworld.com/news/earthquake-induced-electricity-offers-answer-to-mystery-of-gold-nugget-formation/4020154.article, (accessed December 1, 2024).

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坪村太郎

成蹊大学理工学部で無機化学の教育、研究に携わっていました。 低山歩きが趣味ですが、最近あまり行けないのが残念です。