カルシウム(Ca)が関与する腎障害

カルシウム(Ca)が関与する腎障害

今回、化学物質の摂取が原因となる腎障害についての話題です。肝臓と腎臓は化学物質や薬物の代謝に関与しています。代謝産物は最終的に腎臓から排泄されることが多く、時にCa塩が腎臓に沈着し腎障害を引き起こすことがあります。一般に薬物中毒は血液や尿から薬物検査をして初めて疑われます。しかし、このタイプの中毒は腎臓の病理組織検査から疑われるという特徴があります。

 

サプリメント

近年、我が国でもサプリメントが広く使われるようになりました。サプリメントは栄養補給、疲労回復、健康の保持増進を目指して、食事で不足する栄養素を補給する目的で摂取されます。サプリメントは栄養補助食品であり、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、などを含みます。その効能について、医薬品でないので、科学的根拠があるかどうかははっきりしません。ただし、特定の成分を濃縮し錠剤やカプセル状にしたものが多く、見た目は医薬品に見えます。また、特定の成分を多量に含むことから、長期連用すると、健康被害が出現することがあります。日本医師会はホームページでサプリメントの摂りすぎに注意喚起しています1)

 

リンの過剰摂取

リン(P)は通常の食事をしていると不足することはありません。もともと、Pは鰯、鯖、するめ、ハム、ソーセージなどの食品に多く含まれます。PはCaと結合し、骨の主成分であるリン酸カルシウムを生成しますが、水に溶けにくいため、血液中で過量になると腎臓の組織に沈着したり、尿中に結石を作ったりします。こうなると、急性腎不全や尿管結石などの疾患につながります。また、漢方成分のウコン(ターメリック)はPやKを多く含みます。ウコンは健康食品やサプリメントとして摂取されることも多いです。このように骨を丈夫にするサプリメントにPが多く含まれていることがあり、注意が必要です。

 

エチレングリコールの摂取

エチレングリコールは炭素数2、分子量62の2価アルコール(ジオール)です(1)。水に溶けやすく、融点が低いため、自動車の不凍液として広く使われています。身近にあるために入手が容易で、事故や自殺、他殺の目的で使用されることがあります。やや甘い味があり、ワインなどに混入されて摂取されることもあります。エチルアルコールよりも毒性が強く、経口摂取の場合、致死量は100mLとされています。法医学でも時々、エチレングリコール中毒の解剖があります。

 

(1)ジオール

 

(症例)ホームレスの高齢男性が芝生の上で意識不明であり警察に通報された。液体が入ったペットボトルを所持していた。救急搬送されたが、約18時間後に死亡した。搬送先病院の血液検査で高度の代謝性アシドーシスを示していました。アシドーシスとは血液が酸性になることです。血液のpHは厳密にコントロールされ(基準値:pH7.35〜7.45)、pHが大きくずれると生命に関わります。死因は不明だったので、法医解剖が行われました。その結果、肉眼的に重大な外傷や臓器病変はありませんでした。解剖後に実施された通常の薬物検査、飲酒検査(エチルアルコール)では異常ありません。しかし、病理組織検査から腎臓の近位尿細管内の所々に大小不同の貝殻状の結晶が析出していました(図1)。

図1. 腎臓のHE染色 (x200) 緑矢印はCa沈着

 

図2. 腎臓のKossa染色 (x400) 緑矢印はCa沈着

 

結晶はKossa染色で黒染したことから(図2)、Ca化合物の結晶であることが明らかになりました。エチレングリコールは経口摂取されると吸収され、肝臓で酵素により酸化的に代謝されます。先ずアルコール脱水素酵素(ADH)によりグリコールアルデヒド(2)へ、さらに、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)により、シュウ酸(3)になります。その結果、血液は高度の代謝性アシドーシスを示します。また、シュウ酸は血中でCaと結合し、不溶性のシュウ酸カルシウムとなります。この化合物は血液中の老廃物を濾過して排出する役目の腎臓の尿細管に沈着し、尿細管壊死を引き起こし、重症の場合、急性腎不全になります。このように、エチレングリコールは生体に対して毒性が強いと考えられています。エチレングリコールは腎臓の病理組織所見から中毒を疑うことができる数少ない化学物質です。この症例ではエチレングリコールの定量検査により、血液中 2.71 mg/mL(中毒濃度 1.5 mg/mL、致死濃度:2.0-4.0 mg/mL)、ペットボトル内溶液 412.35 mg/mLでした。後日、ペットボトル入っていた液体はラジエーター液(LLCトヨタ赤、エチレングリコール約50%含む)と判明しました。

 

(2)グリコールアルデヒド

 

(3)シュウ酸

 

なお、エチレングリコール中毒の治療法にADHの阻害剤のホメピゾールの投与があります。エチレングリコールの代謝を遅らせ、その間に血液透析などを行ってエチレングリコールを除去します。ホメピゾールがすぐ入手できないときは、エタノール投与を行ってADHをエタノールで飽和させ、ADHがエチレングリコールに作用することを防ぐ方法がとられます。

 

終わりに

これらは化学物質による毒性ですから広い意味での中毒ですね。臓器によりその化合物に対する感受性が異なるので、毒性の現れ方に差があります。腎臓は排泄器官であり、摂取した化学物資やその代謝産物に接触することが多く、毒性が出やすい臓器です。

 

 

 

 

参考:

「健康食品」・サプリメントについて. 日本医師会ホームページ. https://www.med.or.jp/people/knkshoku/

 

 

The following two tabs change content below.

上村 公一

東京医科歯科大学名誉教授、もと高校教諭(理科・化学)。専門は法医学、中毒学。テレビドラマや小説の法医学監修をしてきた。

最新記事 by 上村 公一 (全て見る)