宇宙望遠鏡にも採用された元素、ベリリウム

元素記号Be、原子番号4の元素、ベリリウム。原子番号が小さいだけあり、少ない数の電子が原子核に強く拘束されている原子だ。それゆえベリリウムはどちらかというと共有結合的に振舞う。

ガラスアンプル瓶のベリリウム単体

 

天然にベリリウムを含む鉱石は多種類ある。その代表がベリル(緑柱石)でベリルはベリリウムを含む六角柱状の鉱物(ケイ酸塩鉱物)で組成式はBe3Al2Si6O18である。ベリルの美しいものは宝石として扱われ、その色によって異なる名前で呼ばれている。青色のものはアクアマリンとして有名である。

アクアマリン(緑柱石) ブラジル、ミナス・ジェラエス産(アクアマリンは青色のベリル(緑柱石)のこと)https://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery2/132aqua.html

ベルトラン石はベリルに次ぐ重要なベリリウム資源として使われ、組成式は Be4Si2O7(OH)2である。また、金緑石(クリソベリル)と呼ばれるベリリウムとアルミニウムの酸化物BeAl2O4 は名前のとおり、黄色から黄緑色を示すものが多く希少価値の高い宝石である。

アクアマリン、ベルトラン石、金緑石 写真提供:鉱物たちの庭ホームページ管理人

 

銅にわずか1~2%のベリリウムを加えるだけで銅の6倍もの強度を生むことがわかっている。この合金は高い比熱や優れた寸法安定性(低密度だが非常に堅い)も示す。このことから航空宇宙産業、精密電子機器の部品、および機械工業に用いられている。原子量が小さく中性子と質量が近いことから、中性子と衝突することで自分がそのエネルギーももらって中性子を静止する効果を示す。ベリリウムの小さなサイズ(原子番号が若いこと)が、高いX線透過性や中性子減速性を示す原因となっている。

また、酸化ベリリウムは化学的に安定で耐火性に優れるため、原子炉材料、ロケットの燃料室、電子機器や超小型電子機器のセラミックスとしても用いられる。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が中心となって開発を行っている赤外線観測用宇宙望遠鏡で2021年10月に打ち上げが予定されている。この望遠鏡は宇宙の初期に誕生した星や銀河の観測、形成過程にある星や銀河の観測、太陽以外の恒星を回る惑星の調査、太陽系の監視などを行うことを目的としている。この目的を果たすために、主鏡は合計18枚のベリリウム製セグメントから成っていて、赤外線を反射しやすいように純金でコーティングされている。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/archive/9/99/20100805143433%21James_Webb_Space_Telescope_Mirror37.jpg
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/50/James_Webb_Space_Telescope.jpg

ベリリウムはウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡を構成する六角形セグメントの主要材料

 

 

実験1 フラーレンにBeを入れると?

フラーレンは炭素原子が球状の構造をしている化合物の総称で、教科書にも登場するくらい有名だ。フラーレンを発見したクロトー、スモーリー、カールの3氏は1996年にノーベル化学賞を受賞している。フラーレンはダイヤモンドや黒鉛、カーボンナノチューブと並ぶ炭素の同素体。フラーレンにはC60、C70、C84などが知られていて、C60は60個の炭素原子が12個の五員環と20個の六員環を構成したサッカーボールの形をしている。

このミクロなサッカーボールの中に色々な原子を入れてみる研究が進められている。Beの同位体をC60に挿入しその半減期を丁寧に調べるという試みが東北大学の研究者らによって行われた。ベリリウムの放射性同位体ベリリウム7(7Be)は、放射性崩壊する性質を持つ。実験的に確認するために、ベリリウムを内包したフラーレンを液体窒素で冷やしながら、その放射性同位体の寿命を表す「半減期」を測定したところ、約1%も半減期が短くなることが発見された。ベリリウム7の半減期が0.1%前後変わることは以前から知られていたが、これほど大きな変化が確認されたのは常識を覆すほどの数値だそうだ。

ベリリウム7(7Be)の放射性崩壊は電子捕獲(electron capture)という核反応を経て、リチウム7(7Li)に変化する。フラーレンの中の空間で、ベリリウム原子がフラーレンから電子をもらいすぎた状態になることが原因であると考えられている。

 

 

 

実験2 ベリリウムの分離と検出

ベリリウムやその化合物は動植物および人体に有害であることが知られている。化合物は接触によって皮膚炎を起こし、傷口から入ると慢性潰瘍となる。粉塵やヒュームを吸入すると呼吸困難・急性肺炎・気管支炎・となる危険性がある。

ベリリウムは容易に錯体もしくは錯イオンを作る性質がある。たとえばテトラアクアベリリウム(II)イオン(Be[(H2O)4]2+)やテトラハロベリリウム酸イオン(BeX42−)と4配位錯体を形成する。EDTAとベリリウムは他の配位子よりも優先して八面体形の錯体を形成することから、分析技術にも利用される。ベリリウムの錯体は数多く作られている(図参照)。

塩基性酢酸ベリリウム

 

 

トリフルオロアセチルアセトンとの錯体

 

 

その他のベリリウム化合物(―Meはメチル基を、―iPrはイソプロピル基を示す)

 

 

溶液中の微量のベリリウムの分析には誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)や誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)が用いられる。例えばICP-MSでの検出限界は0.3 ng/L程度まで達している。海水のようなほかの塩類を多く含む試料を測定する場合には、EDTAおよびアセチルアセトンを用いて溶媒抽出法によりベリリウムを分離してから分析を行う。また、トリフルオロアセチルアセトンはベリリウムと安定な錯体をつくり、水溶液から有機溶媒に抽出することができるので、ガスクロマトグラフィーを用いてサブppmオーダーまで定量分析できる。

 

 

参考文献

桜井弘、「元素111の新知識(ブルーバックス)」、講談社、1997年

 

高純度化学研究所 ベリリウム

https://www.kojundo.net/category/BE/BEE02PB_ASK.html?__pc_site_mode=pc

 

鉱物たちの庭

https://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery2/132aqua.html

https://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery8/550bert.html

https://www.ne.jp/asahi/lapis/fluorite/gallery/044chrys.html

 

結晶美術館 写真周期表 ベリリウム

https://sites.google.com/site/fluordoublet/elements/beryllium

 

IPCS 国際化学物質簡潔評価文書「世界保健機関 国際化学物質安全性計画」

Concise International Chemical Assessment Document No.32 Beryllium and Beryllium Compounds(2001), ベリリウムおよびベリリウム化合物

http://www.nihs.go.jp/hse/cicad/full/no32/full32.pdf

 

Chem-Stationフラーレンの中には核反応を早くする不思議空間がある

 

[東北大学] ベリリウム7の半減期が1%短縮

http://www.jaif.or.jp/news_db/data/2004/0924-2-2.html

 

C60内でβ崩壊が加速 Yahoo!ニュース経由の産経ニュース(2004/9/21)放射性元素の寿命1%短縮 東北大チーム、実験で確認 半世紀にわたる常識覆した

http://tftf-sawaki.cocolog-nifty.com/blog/2004/09/c60.html

 

Chem-Stationベリリウム Beryllium -エメラルドの成分、宇宙望遠鏡にも利用

https://www.chem-station.com/elements/elements-all/2016/02/beryllium.html

 

“Enhanced Electron-Capture Decay Rate of 7Be Encapsulated in C60 Cages.” Ohtsuki T et al. Phys. Rev. Lett. 2004 DOI: 10.1103/PhysRevLett.93.112501

https://science.sciencemag.org/content/333/6042/613/tab-pdf

 

Dr. Magnus R. Buchner, “Recent Contributions to the Coordination Chemistry of Beryllium”, Chemistry A European Journal, Vol. 25, 52, p.12018-12036, 2019

https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/chem.201901766

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山﨑 友紀

大学教授として化学や地球環境論の講義を担当。水熱化学の研究を行いながらサイエンスライターとしても活動中。趣味はクラシックバレエ。