この世で一番ロックな元素 それはタングステン(W)で違いない!?

写真1:私のロックのイメージ。一口にロックといってもさまざまなジャンルがあるので、人によってイメージするものが違うかもしれません・・・・

ロックな元素を探せ!!

元素のことを書いた本はいろいろありますが、子供が最初に手に取るなら、かこさとしさんの「なかよしいじわる元素の学校」がお勧めです(手に入れることは難しいので図書館で探してみてください)。元素をいろいろな性格の子供になぞらえているところが、面白くてわかりやすいのです。しかし、これは絵本ですから、各元素の細かい性格までは紹介されていません。

ブログで元素を紹介するようになって、さまざまな元素の性格(性質)について以前よりも深く知るようになり、かこさんの絵本が教えてくれようとしていたことが、ようやく分かり始めた気がします。例えば激しい性質をもつ元素でも、その性質で“火消し”をするものもあれば、たくさんの元素と仲良くなっていろいろな化合物を作るものもあるのです。そんな元素には人間味が感じられます。

そこで、今回は“こんな性格の元素はないか?”という視点で探してみようと思いました。例えば、ちょっと攻撃的で型破りなイメージの“ロックな元素”なんてどうでしょうか?どんな元素だったら、“ロックだね”と皆さんに納得してもらえそうか想像を巡らせてみました(写真1)。

タングステンという“ヘビィメタル”

ヘビィメタルという、1960年代後半に誕生したハードロックのジャンルがあります。“メタル”は“金属”ですから、“ヘビィメタル”とは“重金属”のこと。リズムセクションに金属的な電子音が入っていることが、その名前の由来です。やっぱりロックな元素は、金属で、しかも重量感があることが第一の条件ではないでしょうか。

では、この世界にある金属を重い順に並べてみましょう。堂々の第一位が、原子番号76番のオスミウム(Os)です。1cm四方の立方体で、22.5 gにもなります。ほぼ同程度の重さで77番のイリジウム(Ir)、3位は高価な貴金属として知られる白金(Pt)で21.45 gです。その後にレニウム(Re)、プルトニウム(Pu)、金(Au)、タングステン(W)と続きます・・・。

では、もっともロックな元素はオスミウムでしょうか?確かに重いのですが、地殻中の存在量がごくわずかな上に、ギリシャ語で臭いを意味するosmeが名前の由来だといわれると、ロック感がいまいち足りません。では、イリジウムでしょうか。こちらも存在量は少なく高価ですし、元素名はギリシャ神話の虹の女神Irisにちなんでいて、これもしっくりきません。こうして順に検討していくと・・・・・・・・もっともロックにふさわしいと思われる元素が見つかりました。タングステンです!!

重さは19.3 g/cm3で7位ですが、ヘビィメタル(重金属)の定義である「鉄(7.8 g/cm3)よりも重い金属であること」を十分満たしています。金とほぼ同じ重さで、金より存在量が多いために(よくないことですが)タングステンに金メッキをした金の偽物が出回っているそうですから、気をつけなくてはいけません。

そして何といってもタングステンは、スウェーデン語で“重い石”を意味するという、そのネーミングがいいのです。元素記号のWは、タングステンを含む鉱石であるウォルフラマイト(Wolframlite、狼鉱石)の頭文字です。ウォルフラマイトとは、鉄マンガン重石[組成:(FeMn)WO4]のことです(写真2)。スズを精錬する際にこの鉱石が存在すると、スズの収率が下がることから、スズを羊にたとえると羊を食う狼のようだということで、ウォルフラマイト(狼鉱石)と名付けられました。

写真2:ウォルフラマイトと呼ばれる鉄マンガン重石。ここからタングステンが精製される。

そしてタングステンは重さこそ7位ですが、融点は金属中でもっとも高い3380 ℃。しかも、極めて加工しにくいのです。以前、最強金属と最強ドリルが対決する番組を見たことがありますが、あの金属はタングステンだったのかもしれません!!ロックな金属は、そう簡単には融けないし、人の言うなりにもなりません。

ロックな元素のロックな用途

ここまでロックな元素として申し分のないタングステンですが、その使われ方はどうでしょうか。「加工がしにくい」となると、どんな風に使われているのか若干心配でした。しかし、実際にはニッケルや銅、鉄などを加えて合金にすることで、切削加工(刃物で材料を削る加工法)ができる材料に改良され、いろいろな用途に用いられています。

まず、“重い”という性質を活かして、釣りのおもり(シンカー)や、ゴルフ道具などのウエイトとして使われています(写真3左)。

最近はLEDに取って代わられつつある白熱電球ですが、これまで私たちの生活を明るく照らしてくれました。この白熱電球のフィラメントの材料は、タングステンです。タングステン製のフィラメントは電流を流すとどんどん熱くなって強い光を出すようになり、2000 ℃を超えると白く光ります。これほど高温になっても、フィラメントがすぐ切れたりしないのは、タングステンの融点が高く熱に強いからです(写真3右)。

写真3:釣りのおもり、シンカー(左)と白熱電球のフィラメント

さらに電子レンジの心臓部とも言える、マイクロ波を発生させる“マグネトロン”にもタングステンが使われていますし、電子顕微鏡などで電子ビームを発生しているのもタングステンです。

アーク溶接は、アーク放電の熱で金属材料同士を溶かしてくっつける溶接方法です(写真4)。アーク放電とは、電極間に隙間があっても、そこをバチバチと電流が流れる現象です。融点の高いタングステンは、アーク放電程度の熱では融けないので、電極の材料として使われています。

写真4:アーク溶接をする作業員とTIG溶接の模式図。アーク溶接にはさまざまな種類があり、そのうちのTIG(Tungsten Inert Gas)溶接では、タングステンを電極にしてアーク放電を起こして母材と溶接金属の両方を融かしてつなぎ合わせる。

炭素とタングステンから成る超硬合金は、ダイヤモンドや炭化ホウ素に次いで硬いので、ドリルなどの切削工具として使われています。この高い硬度は、戦車などの装甲(敵の砲弾などから保護するために用いられる防御板)の材料の要求にも応えられるほどです。

また、2013年に帝人株式会社が開発した放射線防護服向けの繊維は、強度や耐熱性に優れたアラミド繊維にタングステン粒子が混ぜられていました。すでに消防服や防弾チョッキなどに使われているアラミド繊維に、放射線を遮蔽する性質をもたせるために混ぜられたのが、タングステンだったというわけです。

重くて、熱に強くて、マイクロ波や電子ビームを発生させることができ、アーク放電で火花を散らすタングステンの用途は、挙げればキリがありません。期待を裏切らない“ロックな用途”が多いことに驚かされ、“もっともロックな元素はタングステンで間違いない”と私は確信したのですが・・・・・・・・皆さんはいかがでしょうか?

 

参考資料:
『元素の事典』朝倉書店、2011年
『世界史を変えた50の鉱物』原書房、2013年
日本タングステン株式会社HP(2018年9月現在):https://www.nittan.co.jp/products/tungsten_wire_002_001.html
『切削工具とは?』(三菱マテリアル、2018年9月):http://carbide.mmc.co.jp/technical_information/tec_guide/tec_guide_carbide

 

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池田亜希子

サイテック・コミュニケーションズに勤務。ラジオ勤務の経験を生かして、 現場の空気を伝えられる執筆・放送(科学関連)を目指している。